宇宙の解明につながるアマチュア天文家の新天体発見 – JPN
宇宙の解明につながるアマチュア天文家の新天体発見
新星の発見
夜空で突然明るく輝く天体「新星」――夜空に新たな星が出現したように見えることからこう呼ばれてきました。実際には、連星系を成す2つの星の1つから流れ出したガスが、もう1つの白色矮星(わいせい)の表面に降り積もり、それがある量を超えたときに核爆発を起こして極めて明るく輝く現象です。そのため、この明るく輝く現象を「新星爆発」と呼ぶこともあります。
天の川銀河の中の新星は、1年に数個ないし十数個程度発見されていますが、その発見にはアマチュア天文家による観測が大いに寄与しています。いつどの方向に出現するか予測できない新星は、夜空を日々くまなく捜索する地道な観測で発見されます。また、発見後に行われる緻密な追観測が、天文学上の新たな発見に結びつくということがままあるのです。
新星をすばる望遠鏡で観測、元素の起源に迫る
日本のアマチュア天文家が発見した新星の詳細観測を、すばる望遠鏡を用いて行った結果、宇宙の元素の起源に迫る研究成果が得られた例もあります。
2013年8月に発見された新星「いるか座 V339」。この高分散分光観測を行ったところ、新星爆発の際にリチウムが大量に生成されていることが明らかになりました(新星爆発は宇宙のリチウム合成工場だった(2015年2月))。リチウムは、水素やヘリウムと共にビッグバンで合成されたとされていますが、現在の宇宙に存在するリチウムの量を説明するためには、他の起源も考えなければなりません。この観測研究で、新星爆発がリチウム生成の一つとなることが、初めて観測的に明らかになったのです。その後も、新星爆発によるリチウム生成の証拠が次々と捉えられてきたことから、宇宙に存在するリチウム量の大部分を新星起源で説明できる可能性が高まりました。
しかし、2015年9月に発見された新星「いて座 V5669」を観測したところ、リチウムの生成量はかなり少なく、新星爆発だけでなく他の起源(超新星爆発による生成など)も併せて考慮しなければならないことが、改めて分かったのです(すばる望遠鏡が明らかにした新星爆発によるリチウム生成量の多様性(2021年7月))。
この新たな知見に結びついた新星「いるか座 V339」、「いて座 V5669」の発見は、山形県山形市の板垣公一(いたがき こういち)さんによるものです。
上記のような観測成果を得るためには、新星爆発という現象が起こってから適切なタイミングで観測することが重要になります。そのため、出現間もない新星の発見とその適切な通報は、とても大切です。また、発見だけでなく、その後の明るさの変化や分光といった観測にも、アマチュア天文家や各地の公開天文台が活躍し、その天体現象の理解に大いに貢献しています。
日本天文学会の表彰制度
このようなアマチュア天文家の功績をたたえる活動の一つとして、日本天文学会は、新星、超新星、彗星(すいせい)といった新天体の発見(独立発見を含む)・報告をした者を表彰する制度を設けています(日本天文学会天体発見賞、日本天文学会天体発見功労賞)。また、観測、調査、計算などで天文学の進歩・普及に寄与した者を表彰する制度も設けています(日本天文学会天文功労賞)。アマチュア天文家による新天体発見が多数あるのは、日本の天文コミュニティの大きな特徴です。こういった表彰制度が、アマチュア天文家と研究者との一層の連携につながり、またそこから宇宙の新たな知見が得られることが期待されます。
今夜もまた……
真夏の蒸し暑さが去り初秋の空気に入れ替わる頃、すっきりと晴れた夜空に輝く星々が一段と美しい季節になります。月明かりのない夜に見上げる空には天の川がかかり、その流れ落ちる南の空には、さそり座、いて座といった代表的な夏の星座を見つけることができます。
天の川に沿った方向には、毎年多くの新星が発見されています。この天の川の中で今夜も新しい星の輝きが見つかり、それが新たな宇宙の姿の発見につながるかもしれません。晴れた夜にはきっと、新たな天体を発見しようと目を凝らす人々がいることでしょう。
関連リンク
- 新星爆発は宇宙のリチウム合成工場だった(すばる望遠鏡)
- すばる望遠鏡が明らかにした新星爆発によるリチウム生成量の多様性(すばる望遠鏡)
- 日本天文学会各賞について(日本天文学会)
- 日本人が発見した天の川銀河の中の新星一覧
文:小野智子(国立天文台 天文情報センタ-)
出典:国立天文台ニュース