M87とおとめ座銀河団 – JPN
M87とおとめ座銀河団
2019年4月に発表された、巨大ブラックホールとその影「ブラックホールシャドウ」を記憶している人は多いと思います。まるでドーナツのようなその姿は、世界中の人々に大きなインパクトを与えました。これは、おとめ座方向にある楕円銀河M87の中心に位置する巨大ブラックホールの電波観測から得られたものです。
おとめ座銀河団
6月上旬の夜8時頃、東京ではちょうど真南の空におとめ座が昇っています。白い色の1等星・スピカが、おとめ座を見つける目印です。全天にある88の星座の中では、大きさがうみへび座に次いで2番目という、ずいぶん大きな星座です。この方向にはおびただしい数の銀河が存在しています。とはいっても、肉眼で見るには暗いものばかりで、観察するには望遠鏡が必要になります。楕円銀河M87もこの多くの銀河の一つです。
銀河は宇宙空間で群れを成していることが知られています。こういった群れを銀河団あるいは銀河群と呼びます。おとめ座方向にまとまっている銀河団は「おとめ座銀河団」と呼ばれ、たいへん大きな質量を持つM87がこの銀河団の中核として存在しています。なにせ、M87の中心には太陽の質量の65億倍にも相当する超巨大ブラックホールが潜んでいるのですから——。
M87の巨大ブラックホール
このM87のブラックホールシャドウを撮影した「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」の研究成果がこの春、続々と発表されました。一つは、M87中心のブラックホールの周辺に整列した磁場が存在することを直接観測で示したこと(2021年3月発表)、もう一つは、このブラックホールを地上の電波望遠鏡だけではなく、宇宙空間の可視光線、紫外線、X線、ガンマ線の望遠鏡をも駆使して一斉に観測をし、そのブラックホールジェットの詳細な姿を捉えたこと(2021年4月発表)です。
その強力な重力により、周辺にあるほとんどの物質がブラックホールに捕獲され落ち込む一方で、一部の物質は捕獲される寸前に重力から逃れてジェットとして宇宙空間に吹き飛ばされています。ブラックホール近傍の物質の振る舞いを正確に解明するための鍵を、このM87は握っていると言えるでしょう。肉眼では直接見えない、宇宙の劇的なシーンを捉えようとしている天文学者たちの視線は、この夜空の向こうに注がれているのです。
今後も、観測とスーパーコンピュータを用いた理論計算とで、ブラックホールの姿が解明されていくのが楽しみです。
参考リンク
- 史上初、ブラックホールの撮影に成功―地球サイズの電波望遠鏡で楕円銀河M87に潜む巨大ブラックホールに迫る(2019年4月10日)
- イベント・ホライズン・テレスコープ・プロジェクトがM87ブラックホールごく近傍の磁場の画像化に成功(EHT-Japan)
- 多波長同時観測でさぐるM87巨大ブラックホールの活動性と周辺構造―地上・宇宙の望遠鏡が一致団結―(EHT-Japan)
文:小野智子(国立天文台 天文情報センター)
出典:国立天文台ニュース